岡田武彦 その哲学と陽明学
© Okada Takehiko-Youmeigaku
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岡田武彦先生の業績を5分野に分けて紹介致します。
まず
1.大学助教授・教授として多くの学生を教授し、論文や著作活動に活躍された業績
2.「東アジアの伝統文化国際会議」の開催の実行委員長として活躍された業績
3. 21世紀の地球と人類に貢献する陽明学をテーマに「国際陽明学京都会議」の議長として活躍された業績
4.日本の学友協力で王陽明遺跡探査と王陽明の遺跡修復、及び記念碑の建立、そして中国の学者との交流で活躍された業績
5.人と共に生きる共生思想の実践で市民講座や書院教育を実践され活躍された業績
が挙げられます。特に国際会議を開かれ陽明学を世界的に知らしめた功績は非常に大きいと思います。
業績
(1)大学助教授・教授として多くの学生を教授
昭和24年(1949)九州大学文学部助教授兼第三分校助教授
昭和26年(1951)九州大学第二分校助教授
昭和28年(1953)九州大学文学部講師(中国哲学史)併任
昭和35年(1960)文学博士
昭和41年(1966)米国・コロンビア大学客員教授
昭和42年(1967)日本中国学会評議員
昭和44年(1969)九州大学教養部長、九州中国学会会長
昭和46年(1971)日本中国学会理事
昭和47年(1972)九州大学定年退官、九州大学名誉教授、中華学術院栄誉哲士
昭和47年(1972)西南学院大学文学部教授
昭和51年(1976)東方学会評議員
昭和52年(1977)活水女子短期大学教授
昭和57年(1982)活水女子大学文学部教授
参考 中学校・高等学校で多くの生徒に教授
昭和9年(1934)旧制富山県立神通中学校教諭
(1年生には日本史、2年生に東洋史、1~4年生に修身を教授)
昭和13年(1938)旧制宮崎県立延岡中学校教諭
昭和14年(1939)旧制福岡県立中学修猷館教諭
昭和18年(1943)長崎県師範学校教諭
昭和20年(1945)熊本陸軍幼年学校教官
昭和20年(1945)熊本補導講習所嘱託
昭和21年(1946)福岡県中学修猷館教諭
昭和22年(1947)福岡県立修猷館高等学校教諭
岡崎豪 氏 撮影
1.多くの学生・生徒を教授し、論文や著作活動に活躍
2.「東アジアの伝統文化国際会議」の開催の実行委員長の業績
開会挨拶で岡田武彦実行委員長は、「まもなく20世紀が終わろうとしている今日、世界は政治的、経済的、文化的に激しく揺れ動いている。我々は、伝統文化・思想をもう一度学び直すことによって、人類の未来を切り拓いていく何ものかをそこから探すことができるかどうか。伝統思想を今日に新しく生かす方法を見いだすことができるかどうか。今回の国際会議は、このような重大かつ切実な課題を担っている。」と述べられました。
テーマは「貝原益軒を考える」で、先ず岡田会長開会挨拶のあと。コロンビア大学名誉教授のW・T・ド・バリーが「世界的に評価を受ける貝原益軒」と題して通訳付きで基調講演を行いました。
つづいて「シンポジウム」に移り、司会は元東北大学名誉教授の源了圓、パネリストに元福岡大学教授の井上忠、恵光会 原病院院長の原敬二郎、温和堂木下クリニック院長の木下勤、福岡教育大学教授の板坂耀子の日本側4名と、バックネル大学教授のアメリカ M・E・タッカーという豪華メンバーで、シーボルトから東洋のアリストテレスと称えられ、地元福岡が生んだ養生の神様ともいうべき「貝原益軒」について、それぞれのパネラーから発表があり、益軒の偉大な業績を語り、今に生きる意義を学び今後の指針としました。
◆2日目も同会場で、岡田委員長が「日本文化と簡素の精神」と題し講演しました。「日本には、古来から「簡素の精神」があり、簡素になればなるほど内的精神は豊かになり、深くなる」ということを、例をあげて簡潔に話されました。(詳細は岡田武彦 著 『簡素の精神』 致知出版社 発行を参照)
このあと三つの分科会に分かれて、それぞれに研究発表と討論が行われた。以下に各テーマと発表者の氏名を記します。
第一分科会
中庸の解釈をめぐって 金谷 治(東北大学名誉教授)
「心遠考」─宋代新儒家の意識構造に関する一考察 佐藤 仁(久留米大学)
宋明の道学詩について 福田 殖(九州大学)
岡本監輔の思想について 町田三郎(九州大学)
明中葉以後の反伝統思想 李 焯然(シンガポール大学)
黄梨洲の陽明学に対する批判と理論的訂正 呉 光 (浙江省社会科学院)
乾嘉学派と清代の実学 葛 栄晋(中国人民大学)
熊十力の清代考証学に対する批判 林 慶彰(台湾中央研究院)
明代庶民儒者顔鈞とその大中思想 黃 宣民(北京社会科学院)
曾點楽から狂禅の風へ 古 清美(台湾大学)
第二分科会
中国の公と日本の公 溝口雄三(大東文化大学)
清末民国初の思想的展開─伝統と近代─ 河田悌一(関西大学)
中国商人倫理思想の現代的意義 川勝 守(九州大学)
近代儒学と中華文化 徐 遠和(中国社会科学院)
無と自然─中国道家思想の考察─ 戴 璉璋(台湾中央研究院)
論語版本源流考 昌 彼得(台湾故宮博物院)
四庫全書と中国伝統文化 呉 哲夫(台湾故宮博物院)
明宣宗歴代臣鑑の文化史上における意義 趙 令揚(香港大学)
王陽明と道家 泰 家懿(トロント大学)
荀子の孟子批判の要因
─子思・孟子の五行説に関する新解釈─ 黃 俊傑(台湾大学)
南宋における太上感応説と民衆道徳について 朱 栄貴(台湾中央研究院)
第三分科会
明代儒学の回顧と展望 余 英時(プリンストン大学)
毛沢東における伝統文化の継承に関する分析 劉 述先(香港中央大学)
陳白沙から王陽明へ 羌 允明(マケリー大学)
孔子仁学の歴史的発展と現代的意義 歩 近智(北京社会科学院)
仁義道徳と二十一世紀 高 令印(厦門大学)
四海一家─儒教エコロジーについて─ R・L・テーラー(コロラド大学)
儒家の現代的意義 柳 存仁(オーストラリア大学)
儒家人文精神の現実化 王 邦雄(台湾中央大学)
中国伝統文化の自然に対する重視と擁護 鄭 良樹(香港中央大学)
◆3日目はNHK福岡放送センタービルに移り、2日目と同様三つの分科会に分かれて、それぞれの研究発表と討論を行いました。
第一分科会
中国伝統宗教の転機 福井文雄(早稲田大学)
木陳道忞の著作について 野口善敏(長性寺)
儒教的資本主義の精神 金 日坤(釜山大学)
批判的継承と創造的発展
─伝統的儒教者と現代化課題について─ 傳 偉勲(テンプル大学)
中国伝統倫理思想とその基本的特徴 王 鳳賢(浙江省社会科学院)
中国伝統の展開 龔 鵬程(台湾中正大学)
儒家思想とその現代的意義 陳 来 (北京大学)
荀子礼楽論の解明 楼 宇烈(北京大学)
大同思想の理論的価値と実践的意義 周 桂鈿(北京師範大学)
第二分科会
朝鮮の儒学者炳憲の儒教復興論 坂出祥伸(関西大学)
李退渓の書院観 朴 洋子(江陵大学)
趙重峰『東還封事』の改革主義と民本思想 安 炳周(成均館大学)
道教─言葉からの解放─ M・ミルシンスキー(リュブリアナ大学)
新儒家の歴史観─胡宏を例として─ C・シロカウエル(ニューヨーク私立大学)
中国古代哲学思想と文芸思想の関連 張 少康(北京大学)
関漢卿の歴史劇について 曾 永義(台湾大学)
宋代の仏教文学 黃 啓江(ホーバードアンドウィリアムス大学)
貝原益軒の大疑録 黃 錦鋐(台湾師範大学)
貝原益軒と朱熹の「理」思想の比較 李 甦平(中国人民大学)
第三分科会
人文世界と当代新儒学の再建 成 中英(ハワイ大学)
「継往開来」から見た当代新儒家の学術的功績 蔡 仁厚(台湾東海大学)
中国伝統文化の精髄─和合学─ 張 立文(中国人民大学)
中国の伝統的方志学と東方の文化 捷先(台湾大学)
中国戯曲の戯変から見た中国思想文化の展開 金 学主(ソウル大学)
儒家倫理における現代の道徳的危機 L・ヴァンデルメルシュ(パリ大学)
竹内好のアジア現代文化と現代主義の批判倫理 H・D・ハラチュニエン(シカゴ大学)
儒教倫理説の現代における再構成 尹 絲淳(高麗大学)
この折りの論文は、台湾の正中書局から『東亜文化的探求─伝統文化的発展─』と『同─近代文化的動向』の二冊として刊行されました。(『光風霽月』岡田武彦先生追悼文集─528頁・町田三郎文より引用)
左より張立文教授、杜維明教授、岡田先生、ド・バリー教授、疋田啓佑教授
テーマ「貝原益軒を考える」
国際会議のイメージ図
岡田先生が講演「日本文化と簡素の精神」
3.21世紀の地球と人類に貢献する陽明学をテーマに「国際陽明学京都会議」の議長として活躍された業績
平成9年(1997年)8月11日から三日間、国立京都国際会館で、将来世代総合研究所主催、京都フォーラム・将来世代国際財団後援で開かれました。この国際会議は「21世紀の地球と人類に貢献する陽明学」というテーマで、米国・中国・台湾・シンガポール・韓国・カナダ・フランス・オーストラリア・イギリス・ロシアなど世界各地から25名の招待学者と、国内から約300名の研究者・実践家が参加しました。
岡田武彦先生はその年まもなく満八十八の米寿を迎える歳でしたが、矍鑠(かくしゃく)
とした議長としての開会挨拶の中で「近年になって、漸く科学文明が環境破壊、利己主義、物質的・経済的価値の重視、人倫道徳の破壊などの弊害をもたらすことが注目され、(途中略)、それらを克服するには21世紀以後の陽明学の意義と価値を真剣に考えなければならない時期に来ていると思います。(途中略)そこで私たちは、文明文化が進歩し、人智が発達すればするほど、ますます良知を磨いてその光明を輝かしてその功罪を明らかにするとともに、人間の功利心を徹底的に除去することに最も力を注がねばなりません。これが真の文明文化や人智の進歩発達及び人類の平和と繁栄を将来するための必須の道と思います。」と結びました。
その後の基調講演はコロンビア大学名誉副総長のド・バリー、プリンストン大学教授の余英時、大東文化大学教授・東京大学名誉教授の溝口雄三、京都大学名誉教授の島田虔次、ハーバード大学教授の杜維明、トロント大学教授の秦家懿、将来世代総合研究所所長の金泰昌と七名の先生方で行われ、とくに京都大学名誉教授の島田虔次の「我々は儒学というと古くさいと、はじめから決めつけるが、はたしてそうであろうかと思う。例えば王陽明の<大学問>は名文で内容があり、すばらしい。王心齋の<鰍鱔説>も、半死半生のような、こういう人間という生き物を少しでも空気をかよわせて、生きかえらせてやる。それが儒教のゆき方。私はこれが昔から好きで、これは絶対(『儒教選集』を作るとしたら)落とせないと思っていた。」という話しは心にしみるものがありました。
12のセッションでは中国語、英語、日本語に分かれて、熱心に発表と討論が行われました。特にセッション6では、実践部会委員長の京都大学名誉教授の吉田和男の司会のもと、住友生命保険名誉会長の新井正明、元環境庁長官の林大幹、北枝篆会主宰の北室南苑の三氏による実践活動報告が行われました。
最終日の全体会議では、林田明大氏をはじめとする全国の実践活動者の報告が熱心になされ、続いて20代研究者の志として、陳瑋芬(台湾)、白恩錫(韓国)、ロマノフ(ロシア)、藤本茂(日本)の各氏が、それぞれ思うところを発表されました。こういう実践報告は、この国際会議組織委員会議長岡田武彦の「実践家の参加は陽明学が根付いている日本でなければ出来ない試み」という判断と、長年にわたる実践家との熱い交流があったからこそ実現したのでした。
この国際会議は、組織委員会事務局長・将来世代国際財団理事長・京都フォーラム事務局長・矢崎勝彦の献身的尽力によって所期以上の成果をおさめることができました。これは岡田武彦先生の人徳によるところも大きいと思います。(『光風霽月』岡田武彦先生追悼文集─456頁・福田殖先生の文より引用。 組織委員会名簿・国内外招待者一覧は右下記に記します。)
21世紀の地球と人類に貢献する陽明学のテーマのイメージ図
国際陽明学京都会議の会議風景
岡田先生、議長としての開会挨拶
ご案内状より出典
4.日本の学友協力で王陽明遺跡探査と王陽明の遺跡修復、及び記念碑の建立、そして中国の学者との交流で活躍された業績
昭和60年(1985)から平成8年(1996)の間、5次にわたり本場浙江省社会科学院はじめ中国の学者を先導に、日本の学者や門人たちと中国本土の王陽明関連遺跡を精力的に探査されました。中国の学者との交流も深く、日本の学友との協力で王陽明遺跡修復や記念碑建立にも貢献され、1989年(平成元年)4月5日(清明節)には「明王陽明先生之墓」竣工除幕式が挙行されました。岡田先生が墓前で挨拶され、自作の四六駢儷の「祭文」も朗読されました。(詳しくは、岡田武彦著 『王陽明紀行』─登龍館発行・明徳出版社 参照願います。)
王陽明墓修復除幕式1989.4.5
中国 浙江省紹興県蘭亭郷花街鮮蝦山南麓
右端は岡田先生。王陽明墓修復除幕式を見守る参加者たち
5.人と共に生きる共生思想の実践で市民講座や書院教育を実践され活躍された業績
岡田武彦先生は、人と共に生きる共生の精神を省みる為、修身に真摯に取り組み共に人としての理想の社会の実現に向かって努力しなければならないと強調されていました。そして、共に学び共に生きる実践として、特に市民講座や書院教育(「思遠会」「東洋の心を学ぶ会」「簡素書院」など)に積極的且つ熱心に取り組んでおられました。
◆参考書籍・資料(引用要約部分は頁を記載)
「岡田武彦先生の生涯と学問」福田 殖 著 学術雑誌論文 2004.12.25 九州大学付属図書館 九大コレクション
・中学・高校・大学で多くの生徒と学生を教授した記事は岡田武彦先生年譜 PP.120-121より引用要約。
『光風霽月─岡田武彦先生追悼文集』岡田武彦先生追悼文集刊行会(代表 森山文彦)2005.10.17 発行制作 明徳出版社
・写真に関してもこの追悼文集から掲載
岡田武彦先生の写真(岡崎豪 氏 撮影) /東アジア伝統文化国際会議の岡田先生と学者達の写真/国際陽明学会議の会議風景、及び岡田先生、議長としての開会挨拶の写真、国際陽明学京都会議’97のご案内状/王陽明墓修復除幕式で岡田先生挨拶の写真、及び除幕式を岡田先生と見守る参加者達の写真
『我が半生・儒学者への道』岡田武彦述 福岡県小郡市「思遠会」 1990.11.22
・思遠会と岡田武彦先生の活動内容については、思遠会 松尾正威 氏の「あとがき」p.385より記載。
※イラストはイラストAC(著作権有り)より購入したものを掲載しています。
※このコーナーは古賀氏が作成された文章を許可を得て赤松が編集・追記しています。